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地域防災力向上のための行政との連携活動
人間環境システム専攻・教授・翠川三郎
阪神・淡路大震災の際に倒壊した家屋から助け出された人の約8割は家族や近隣住民によって救出されたと言われているように、防災に果たす地域社会の役割は大きい。特に、高齢化の一層の進展などにより災害弱者が増加し、地域社会における共助の果たす役割は益々重要になっている。このような背景のもと、地域防災力向上のための啓発事業などを推進するために、都市地震工学センターと横浜市鶴見区は昨年の3月に震災対策推進に関する覚書を結んだ。従前より鶴見区は防災活動に熱心で、平成17年度には10の取り組み項目からなる鶴見区防災宣言をとりまとめた。これに基づいて、鶴見区では、過去の被害事例や避難所の場所を表示した看板を街の目のつくところに設置する、まるごとまちごとハザードマップの整備を始めとして、地域の特性に即した地域防災拠点運営マニュアルの見直しや地域防災拠点運営委員会による防災マップの作成、災害時要援護者支援の連絡・体制づくり、などの防災活動が積極的に進められてきた。
本センターとの覚書に基づく具体的な活動としては、「震災対策キャラバン隊」を結成し、本センターのメンバーと鶴見区の職員、消防署の職員、横浜市の職員の「学・官」がスクラムを組んで「民」である各地域の自治会の会合に押し掛け、地震と被害の解説から具体的な防災対策として、災害時の初期行動や住宅の耐震補強の手順、家具の転倒防止方法、地域でのつながりの重要性について説明した。本センターのメンバーは、地震災害に対する関心が高まるよう、地震と被害について最新の調査研究結果も含めてわかりやすく講義することに努めた。区、消防署、市の職員の方々も熱心な説明をされて、われわれにとって大変よい刺激となった。区長、副区長、総務課の強力なバックアップもあり、楽しみながら活動させていただいた。平成20年度は、合計で16地域の自治会にお邪魔し、1000名を越える参加者があった。評判も上々で、参加者の4割から大変良かったと、残りの6割から良かったとの評価を受けた。
私自身も何回か震災対策キャラバン隊のメンバーとして参加した。平日の夜に、ある自治会の会館にお邪魔すると、自治会の会合がちょうど終わった頃で、畳敷きの広間に30名くらいの方々が待ち受けていた。過去の大地震でのその地域での被害事例や首都直下地震で予想される揺れの強さ・被害の話、耐震補強の効果の話などを熱心に聞いてもらった。質問はありませんかというと、何人かからさっと手が上がり、ここは地盤が悪く液状化が起こりそうだから、そのことも詳しく話してくれとか、建物倒壊だけでなく地震火災の防止も重要なので、その対策についてはどうかとか、熱心な質問攻めにあい、ひや汗をかくはめとなった。別の公民館では、大学の先生がこんなところにまで良く来てくれたと強い握手で感謝され、大変恐縮してしまった。各地域にはそれぞれ熱心な方々がいて、この方々が地域の防災リーダーとなれば地域での共助の取組も進むであろうと感じた。また、参加された方々は若い方が少なく地域の高齢化が進んでいることも実感した。震災メガリスク軽減のためには、ささやかな活動ではあるが、最先端の研究と並行して、今後も地域防災力向上のための活動を進めていきたい。