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PC技術を用いた早期復旧型建築構造物の提案
応用セラミックス研究所・教授 河野進
1981年の新耐震設計法の基本方針は、中小地震に対しては建物の継続利用を目指し、大地震に対しては構造物の倒壊を防止することであった。しかし、ここ10年間に発生した都市型地震の被害をみると、構造物の安全性確保が重要であることはもちろんだが、さらに損傷をできれば修復不要なレベルまで低減し,建物の機能維持・早期復旧を図ることが、社会一般が求める耐震性能であると考えられる。PC構造は,履歴特性がS字型となりエネルギー消費能力に関しては従来のRC造に比べて劣るものの,残留変形がほぼ0となり大変優れた自己修復性を有する。さらに部材をプレキャスト(PCa)化すれば,部材の損傷が大きく低減されることも,これまでの研究から分かっている。
例えば,地震時変形をPCa部材間に集中させれば,PCa部材自体はほぼ無損傷に抑えることが可能となる。そこで、PCa造においては地震時の弱点と受け取られがちな部材間接合部を、耐震性能上必要な変形吸収部位として積極的に利用する目的で,PC構造と組み合わせる。
アンボンドPC鋼材によりプレストレスが導入された鉄筋コンクリート部材(以下,PRC 部材と呼ぶ。)は,ひび割れや残留変形が低減できる。従来,PRC梁は曲げひび割れとたわみの制御を目的として比較的スパンの長い梁などに適用されてきた。しかし,本研究では通常スパンもしくは短スパンの部材にも,損傷制御の目的でPRC梁を適用しようと考えた。アンボンドPRC梁に関する研究例はこれまでにも見られるが,主として曲げ性状やひび割れ性状に関するものが多く,せん断性状について検討した研究はない。ACI318M-11では,PC梁のせん断耐力式が紹介されているが,鉄筋の付着がせん断耐力に与える影響は明らかでない。そこで本研究では,アンボンドPRC梁のせん断耐力評価を目的とし,7体のアンボンドPRC梁を用いた実験研究を行った(図1)。
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(b)せん断補強筋 | ||
(a) 試験体の立面図 |
(c)かんざし筋 |
(d) 載荷装置 |
図1 実験の概要 |
アンボンドPC鋼材を用いたPRC梁の破壊モードと水平耐力は,本文で紹介した曲げ耐力・せん断ひび割れ耐力・付着耐力・せん断耐力を考慮することでおおむね予測できた。ただし,今回の試験体に関しては,NewRC式よりもPC規準71.2式の方が予測精度は高かった(図2)。
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(a) 復元性に優れた履歴復元力特性 | (b) せん断耐力の評価例 |
図2 代表的な実験結果 |
PC規準およびNewRC式を用いて求めたせん断耐力値が異なる原因を考察した。その結果,コンクリート有効係数やトラス機構におけるコンクリート圧縮束の角度,せん断スパン比が影響を与えていることが分かった。
謝辞:本研究は,住宅市場整備推進等事業(事業主体名:一般社団法人 長寿命建築システム普及推進協議会)の一部として行われました。潟tジタ・高森直樹氏,戸田建設冠竹中啓之氏,樺キ谷工コーポレーション・平田延明氏には,多くの助言を頂きました。ここに感謝の意を表します.