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計画停電が首都圏鉄道の利便性に及ぼした影響の定量的評価
土木工学専攻(准教授) 福田大輔
東日本大震災発生後,福島第一原子力発電所の被災に伴う電力供給能力の大幅な低下により,関東圏では地震発生から数カ月にわたり計画停電が実施された.特に計画停電当初の数週間は,鉄道事業者の輸送サービス水準の低下によって市民生活や産業活動に多大な影響が及んだ.本研究では,計画停電に伴う首都圏都市鉄道サービス水準の低下が鉄道利用者の利便性に与えた影響の定量的な評価を行う.特に,代表的な節電対応である「列車運行頻度の削減」,「相互直通運転の中止」,「優等列車の停止」によって利用者の移動利便性が平常時と比べてどの程度減少したのかを最小費用Hyperpathの概念に基づいて検証する.
Hyperpathに基づく鉄道経路選択モデルでは,期待最小費用Hyperpathに含まれる経路群のみを用いて乗客が目的地まで向かうことを仮定する.一般化費用は,乗車時間と待ち時間の重み付き線形和で構成される.本研究では,まず,平常運行状態での各ODペアの一般化費用を算出する.次に,計画停電に伴う節電要請により鉄道のサービス水準が低下した日の運行状態をシステムの入力データとして与えて一般化費用を算出する.その値を,対象とする全ての日について算出し,平常運行状態での一般化費用に対する増加割合を求める(図1).
図1 利便性評価のイメージ((a)平常時,(b)計画停電時の経路選択行動)
鉄道各社のホームページや信頼できるニュースサイト等を情報源として,震災発生直後の3月11日からの鉄道運行状況データを収集した.このデータを元に一般化費用の変化分を算出した例を図2に示す.これは,3月18日時点における東京駅を最終目的地とする各駅出発利用者の一般化費用の増加割合を示したものである.運行頻度の減少が待ち時間の増加をもたらし,結果として一般化費用の増加に寄与することにより,乗り換え回数の多い遠方の駅からの鉄道利用者ほどより大きな影響を被いていることが確認できる.また,乗り換え回数が多いODペアほど,他の路線を経由して移動する時間が長くなるために,より大きなサービス低下がもたらされていることが示唆される.
図2 3月18日の一般化費用の増加割合(目的地:東京駅)
(出典)Fukuda, D., Fujita, R. and Yaginuma, H.: Analyzing the effects of the rolling blackouts on railway service in the Tokyo Metropolitan Area after the 2011 Great East Japan Earthquake. Journal of JSCE [土木学会論文集], Vol.1, No.1, pp. 479-489. 2013.