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天井などの非構造要素の耐震性能
人間環境システム専攻(教授)元結正次郎
近年の地震被害の典型的な事例として図1に示す天井に代表される非構造要素の被害が挙げられる。特に重要な点は建物の構造本体にはほとんど被害が発生しない程度の地震動であっても天井の大規模な落下被害が発生している点である。このことに注目して、CUEEの活動の一環として、地震時の鋼製下地在来工法天井(図2)と呼ばれる最も一般的な仕様の天井の動的性状やこれを構成する部材の力学的性状について実験的・数値解析的研究を行ってきた。本研究成果は2013年に公布された国土交通省による天井耐震化に関する告示に反映されている。
図1大規模な天井落下被害の事例
図2鋼製下地在来工法天井
- 鋼製下地在来工法天井の地震時における落下現象発生プロセス
地震時に鋼製下地在来工法天井が大規模に落下する理由については、壁などの天井周囲の要素との衝突や上下応答加速度の影響あるいは施工不良など極めて曖昧であった。このために大規模落下現象を実験室にて再現することで落下被害の発生プロセスを明らかにする必要があったが、本研究室で研究を開始する以前には実験による落下被害の再現はなされていなかった。そこで、鋼製下地在来工法天井を試験体とする振動台実験を実施し、鋼製下地在来工法天井において見られる大規模な落下現象の発生プロセスを明らかにした。
- 鋼製下地材の力学的特性
上記の振動台実験によって明らかとなった天井落下現象の引き金となるクリップ接合部における「すべり」および「脱落」挙動を詳細に検討するために、接合部のみを抽出した実験を行った。図3に実験結果の一例を示す。本実験によって、クリップは鉛直力にて脱落するばかりではなく水平力のみが作用する場合でも脱落すること、また、載荷の向きのよって挙動が大きく異なることが明らかとなった。特に、前者は、これまで上下応答加速度の影響によって天井落下被害が発生するという見解が必ずしも正しくないことを示すものであり、その後の天井の耐震性能に関する研究を大きく方向転換させるものとなっている。
- 鋼製下地在来工法天井の数値解析法の開発
これまで行ってきた実験は振動台の規模の制約によって実在する天井を部分的に取り出した試験体を用いて行われてきており、実際の大規模な天井を対象とする研究は未だ行われていない。そのために、コンピュータを用いて被害を予測することは極めて大きな意義を有する。しかしながら、上記のクリップなどを用いた接合部は力学的に明快なものではないことから、当該部位のモデル化は数値解析上の課題であった。そこで、すべりや脱落を伴う接合部位に対する数値解析モデルを構築するとともに、それらを比較的簡便に解析可能とする数値解析法を開発することで接合部位の実験結果を再現することに成功している(図4参照)。
図3クリップ接合部実験結果(水平力載荷時)
図4クリップ接合部の再現解析結果