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家具が固定された壁の耐震性の簡易評価方法
建築学専攻(教授) 横山 裕
家具の固定は、地震時の安全確保の観点から重要である。家具の固定先として最も多いのは壁であるが、家具が固定された壁の耐震性について検討する場合、家具,固定具,壁などを1つのシステムとして捉え、総合的かつ動的に検討する必要があると考えられる。しかし、現状では、固定具の引抜強度程度の資料しか提示されていない場合が多い。ここで、簡易間仕切や架構式の仕上げなどの非構造部材に関しては、構造部材のように個々の建築物ごとに詳細な耐震設計がなされることは稀である。また、おもに既製品を選択する形式が採られている非構造部材や固定具について、候補となる全製品を対象に大規模な実験を実施するのは事実上不可能である。そのため、各製品の耐震性の大まかな序列や弱点を把握できる簡便な評価方法の確立が望まれている。そこで、本研究では、家具,固定具,壁からなるシステムの耐震性を簡便に評価できる“簡易評価方法”について検討した。
本研究では、模擬家具,固定具,試料壁からなる試験体を用い、下記の@〜Cの試験を実施した。図1に試験体の概要と振動台上への設置状況を示す。模擬家具はオフィスの本棚を模擬したもの1種とし、固定具と試料壁の構成を種々変化させて、耐震性の異なる11種の試験体を設定した。
@静的引張試験
A卓越振動数試験
B実地震波(5種)による振動試験
C簡易入力波(図2参照)による振動試験
BとCの振動試験では、入力波の振幅を徐々に大きくしながら試行を繰り返し、試験体が破壊した1回前の試行での最大加速度を“限界加速度”として求めた。
Bと@の結果の比較から、システムの耐震性の序列や弱点は、静的な試験では十分に把握できないことが確認された。また、Aの結果から、システムの振動特性には複雑な角度依存性があるため、実地震波などの入力時にシステムに共振現象が発生することはないことが示唆された。さらに、Bでの試験体の挙動から、システムが破壊するのは実地震波の加速度振幅が最大に達する時点前後の比較的短い期間であり、実地震波のうちこの時点前後の数波がシステムの破壊に支配的に寄与していることが想定された。
以上より、図2に示すような、加速度振幅a,振動数f,波数nの正弦波を基本とする簡易入力波の基本構想を設定した。この簡易入力波は、実地震波のうち加速度振幅が最も大きい部分前後の数波を、基本となる正弦波で置換したものである。Cでは、実地震波のランニングスペクトルや、最大振幅に近い振動の波数の範囲などを参考に、fを3種(1.5,2,3Hz)、nを3種(3波,5波,10波)設定し、計9種の簡易入力波を各試験体に入力した。その結果、図3に例示するように、2Hz,3波の簡易入力波による限界加速度が、Bで求めた実地震波による限界加速度と最もよい対応を示し、かつ破壊箇所も一致することが確認された。
以上の検討の結果、2Hz,3波の正弦波を基本とした簡易入力波で、家具,固定具,壁からなるシステムの耐震性の大まかな序列や弱点を把握できることが明らかとなった。なお、この簡易入力波は、床に固定する場合にも適用可能であることが、別途明らかとなっている。また、この簡易入力波を再現できる、モータとクランクシャフトなどからなる簡便な構造の簡易振動台も開発している。今後、簡易振動台を用いて限界加速度や破壊箇所を求める方法を軸に、さらなる検討を進める予定である。
図1 試験体の概要と振動台上への設置状況
図2 簡易入力波の基本構想
図3 限界加速度の関係の例