出版物
都市内滞留者・移動者の時空間分布推定と大地震時の人間行動シミュレーション
情報環境学専攻(教授) 大佛俊泰
大地震発生後における人間行動(各種施設内待機,徒歩帰宅,広域避難など)について検討し,地域防災計画に資する基礎的情報の提供を試みた。21世紀COEプログラムでは,各種シミュレーション分析の基礎となる,都市内滞留者・移動者の時空間分布を推定する方法について検討した。また,グローバルCOEプログラムでは,これを原データとして,大地震発生後における都市内滞留者・移動者の人間行動について検討し,首都直下大地震を想定した減災計画に資する基礎的知見を得た。さらに,災害に強い防災まちづくりに資する基礎情報を得るため,建築物の不燃化・耐震化の進捗スピードや敷地性状の動態解明を試みた。以上の研究成果は,学術論文での発表に限らず,地域住民の防災意識の醸成と防災対策の啓蒙を図るために,一般市民向けのセミナーや各種マスメディアを通じて広く社会に公表し,社会還元を行った。主な活動内容は以下の通りである。
1)都市内滞留者・移動者の時空間分布推定に関する研究
大都市圏においては,交通網の高度化を背景として人々の空間移動が活性化しており,国勢調査等に基づくスタティックな人口分布をもとにした従来までの議論には限界がある。そこで,大地震を想定した各種被害想定および地域防災計画の基礎となる基盤データを構築した。具体的には,大都市圏パーソントリップ調査のデータを活用して「どのような人(性別・年齢)が,いつ(時刻),どこで(場所・施設),何を(目的)しているのか」という都市内滞留者・移動者のミクロな時空間分布を記述するモデルを構築し,各種施設内外滞留者,鉄道利用者,自動車利用者の時空間分布に関するデータベースを構築した。また,平日ベースのパーソントリップ調査データを休日ベースに変換する方法を開発し,休日における都市内滞留者・移動者の時空間分布データベースを構築した。
2)首都直下大地震を想定した徒歩帰宅・帰宅困難・広域避難・通勤困難に関する研究
都市内滞留者・移動者の時空間分布データベースを活用して,首都直下大地震の発生を想定した各種シミュレーション分析を試みた。まず,帰宅困難者および徒歩帰宅者の時空間分布を推定するモデルを構築し,東日本大震災時に首都圏で発生した状況の検証を行った。次に,物的被害を記述する「環境情報シミュレータ」と人間行動を記述する「人間行動シミュレータ」を構築し,これらを連動させることで大地震発生時における広域避難の様相について分析した。また,高齢者福祉施設を対象として,災害時要援護者の広域避難における課題について検討した。さらに,大規模鉄道駅周辺地域における人々の移動軌跡を推定し,これを可視化するための「歩行者流動モデル」を構築した。さらに,大地震発生後の公共交通機関が麻痺した状況下における就業者の通勤意思と通勤経路を記述する「通勤意思モデル」と「通勤可能性モデル」を構築し,これを用いて就業者の通勤可能性について分析した。
3)防災まちづくりを見据えた市街地変容に関する研究
避難安全性や延焼の危険性と関連の深い敷地の大きさについて検討した。具体的には,敷地が分割・統合されるメカニズムをモデル化し,敷地の細分化を抑制するための方法やその効果について検討した。また,防災まちづくりについて検討する上で重要となる,建築物の不燃化・耐震化の進捗スピードに,現存する各種の規制・誘導がどのように影響を及ぼし得るのかについて検討した。具体的には,建築物の除却・残存確率を記述するモデルを構築し,これを用いて建築物の不燃化・耐震化を促進するための方策について検討した。
4)防災関連の研究をとおしての学生の育成
防災研究の重要性や難しさを広く修学させるとともに,研究活動を通じてどのような社会貢献が可能であるかを考えさせることで,学部生・大学院生の指導・育成を行った。学生諸子の熱心な研究活動は,学内外において高く評価され,各種学会での優秀論文賞(日本建築学会,地理情報システム学会,都市住宅学会など計16件),学内での優秀学生賞(工学部,情報環境学専攻,建築学科同窓会など計12件)など,多くの受賞実績を残した。
5)講演・セミナー・マスメディアによる研究成果の発信と防災意識の醸成
研究成果の内容は,民間企業主催の講演会(2件),学会主催のシンポジウム(2件),他学・本学主催の講演会(2件),CUEE主催のセミナー(6件)などで講演し,防災意識の醸成を図ると同時に,一般市民,自治体防災関係者,防災研究者などへの啓蒙活動を行った。さらに,研究成果の一部は,新聞記事(6件),NHK特別番組・ニュース(6件),民放特別番組・ニュース(9件),インターネット記事(3件)などで掲載・放映され,マスメディアをとおして社会還元を行った。