出版物
建物地震被害を著しく軽減する先端構造の研究と開発
建築物理研究センター・教授 笠井和彦
1.東日本大震災や実大震動台実験による制振・免震建物応答分析と指針への反映
2011年3月11日に発生した東日本大震災での耐震・制振・免震建物多数(例えば図1)の観測記録の分析を行い、歴史が新しく現実的データが少なかった制振・免震構造の効果を明らかにした(図2, 図3)。また、世界最大規模の実大実験を行い、そのデータの分析にも取り組んでいる。観測記録に比べ非常に詳細な分析ができ、これも先端技術の効果検証に非常に有効である。これらの研究の成果は、鉄骨架構、RC架構および下記の木質架構の制振化の指針などへ反映させるとともに、寺子屋形式など多くの講習会で社会に還元した。
図1 分析した建物例(左から耐震建物、制振建物、免震建物)
図2 伝達関数のカーブフィッティングとモード法による同定値
図3 ダンパー有無による挙動の違い(最大値)
2.木造住宅用高性能制振壁の開発
地震に強い都市の創成には、国民の大多数が生活の基盤とする戸建住宅の耐震性を向上させるべきである。そこで新旧戸建木造住宅の耐震性向上に向けた制振化の研究を行った。ダンパーの性能が優れても、それを支持する部材の接合部が、木材の柔らかさにより緩み、制振効果を失う事態になりかねない。これを極力避けた設計により、周辺架構も含めた「効く制振壁」を坂田教授と共同で開発した(図4)。粘弾性、鋼材、摩擦といった様々なダンパーに適用し、図5のように緩みがなく、荷重・変形関係が安定して地震エネルギーを良好に消散すると思われる。民間企業2社がこれらを実用化(図6)し、既に200棟超の施工実績がある。
図4 開発した制振壁の概要
図5 開発した制振壁の性能確認試験結果
図6 商品化した制振壁の展示