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第11回 台湾-日本学生ジョイントセミナー in 宮城
人間環境システム専攻(准教授) 盛川 仁
台湾-日本学生ジョイントセミナーはこれまで春に台湾で,夏に日本で,主として地震工学に関連する研究室に所属する学生を集めて開催してきました。春のセミナーでは毎回,集集地震の被災地跡を訪ねてきましたが,昨夏より日本での開催でも同様の現地見学をプログラムに組み入れました。昨夏は兵庫県においてセミナーを開催し,兵庫県南部地震による断層や保存されている被災構造物などを見学しましたが,今年は3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震を意識して,宮城県においてセミナーを開催しました。
セミナーは7月18日〜20日の日程で宮城県南部の国民宿舎において開催されました。台湾からは國立中央大學(NCU),日本からは本学のほかに京都大学,神戸大学,広島大学から教員(8人)と学生(20人)が参加しました。学生のうち日本語を母語としない者がおよそ1/3の7人で皆が互いにコミュニケーションをとるためには英語でなければいけない,というほどよく国際的な雰囲気のある環境でした。
遠方からの参加者も多いため,18日は移動日としました。仙台空港と仙台駅で貸し切りバスに乗車し,仙台東部道路を南下して亘理町など津波による大きな被害を受けた地域を通り抜けてセミナー会場へ向かいました。そのため,バスの車窓から被災地を目の当たりにして学生諸君は最初から大きなインパクトを受けたようでした。
19日は終日,研究発表会です。参加した学生は全員何らかの発表をすることになっているため,皆,それぞれに緊張の様子でした(写真上)。しかし,このジョイントセミナーをはじめた頃に比べると学生諸君は英語での発表もずいぶんと滑らかになったように思います。かつては,質問の時間になると沈黙が支配して間が持たなかったものですが,曲りなりにも学生同士で何かしら質問してそれに答えられるようになったのはこの2, 3年の大きな進歩であるように感じます。発表内容は地震動,土/上部構造物,防災対策と大震災のまとめのセッションに大きくわけ,一人あたりの持ち時間を16〜17分とってゆっくり議論できるようにゆとりのあるプログラムとしました。専門分野が多岐にわたるため,学生諸君にとっては細かい話は理解できないことが少なからずあったことと思われます。しかし,そのぶん,基本的な質問がしやすく,議論もかみ合ってちょうどよい具合でした。セミナー初の試みとして,司会を学生諸君にやってもらいました。最初の講演者は教員が紹介しましたが,その後,発表した人が終わったら司会として次の人を紹介する,というローテーションで司会をまわし,英語で司会をする,という経験もしてもらいました。発表のように事前に練習したり準備したりできるものではないため,随分と緊張していたようですが,皆,それなりに器用にこなしていたのが印象的でした。
20日は朝食を早めにすませてバスで被災地へ向かいました。セミナーに参加した教員が地震直後にそれぞれ独自に調査して被害状況をある程度把握している場所を中心として,被災した土木構造物などを訪問しました。セミナー会場から海岸沿いの津波によって被害を受けた地域を通って北上し,最初に仙台市蒲生浄化センターを訪問しました。事前に見学をお願いしていたため,資料とともに丁寧な説明をしていただきました。地震直後,津波警報の発令と共に広いセンター内で作業をしていた100人あまりの職員の方たちは最も高いビルの屋上に避難して一人のけが人もなかったということです。ビルの屋上から津波を撮影したビデオを見せていただきました。海岸近くにある構造物に真正面からぶつかって軽々と乗り越えてくる津波を見,さらにその後,実際にその津波と真っ向勝負をしたRC構造物のどう考えても曲がりそうにもない壁がアメのようにゆるやかに曲がっているのを見て自然の圧倒的な力に学生諸君と共に言葉を失いました(写真下)。その後,新幹線高架橋の復旧後の様子,鳴瀬川の大規模な破壊をした堤防の復旧の様子,仙台市内や大崎市古川地区で特に構造物が大きな被害を受けた地域を訪問しました。
確かに地震や津波による被害はテレビによって実況中継され,その映像に衝撃を受けました。しかし,誤解を恐れずに言うならば,それはやはりどこか遠い国の出来事のように頭の片隅で感じているのではないでしょうか。ですから,セミナーに参加した学生諸君には,自らの肌でその場の殺伐とした空気に触れ,浄化センターの大幅な機能低下による臭気を生身のヒトとして感じて欲しいと参加した教員一同は願っていました。いささか自画自賛ですが,このセミナーでの経験は学生同士の輪の広がりだけでなく,それを基礎として彼らが互いに他を高めあいながら地震工学にかかわっていこう,という動機をより強くすることに貢献したのではないか,と思っています。
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