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東北地方太平洋沖地震による建物の被害
建築物理研究センター(准教授) 山田 哲
地震発生以降、学校建物を中心にこれまで行ってきた建物の地震被害に関する調査の概要を報告する。まず振動被害については、地震の規模の割には大きな被害を受けた建物が意外と少ないと感じた。とはいえ、全く被害がないわけではなく、それなりの数の被害は発生している。
写真1〜3は、体育館の被害の例である。このうち、写真1は柱脚の被害であるが、柱を基礎にとめるアンカーボルトが伸ばされ、破断している。ピンであるとの仮定のもとで設計されていると考えられるが、建物が地震力を受けて変形する際には柱脚は大きく回転しなければならず、柱脚が回転するとアンカーボルトは大きな引き抜き力を受け、ピンであると仮定していても実際にはそれなりの曲げが作用しアンカーボルトも大きな引き抜き力のもとで塑性変形することになる。また、筋交いが取り付く位置では、筋交いからも大きな引き抜き力とせん断力が作用する。これまでの大地震でも見られた被害であるが、新耐震以降でも、柱脚の設計・施工において柱脚に作用する外力やアンカーボルトに求められる塑性変形能力に対する配慮ができていなかった例はある。また、写真2は耐震要素である筋交いの破断である。この建物では、ガラスが1枚も割れておらず、建物に大きな変形が生じる前にターンバックルの胴が破壊している。このように、耐震要素や接合部の性能に問題がある被害事例が見られた。地震時に建物の損傷を交換容易な部位に集約させる設計や、耐震要素および接合部のわかりやすい設計法の普及、使用部材の性能確保といった基本的なことが重要であることを改めて認識した。また、写真3は付属建家の天井が落下した後の状況であるが、アリーナ上部に天井を取り付けた体育館でも天井落下の被害が多く発生している。天井以外にも外壁が外れるなど非構造材の被害も多い。
写真1 体育館柱脚の被害 写真2 体育館筋交いの被害 写真3 天井の落下
一方、校舎にも被害は発生している。写真4は柱がせん断破壊した校舎である。新耐震以前で耐震補強が成されていなかった場合に被害が見られるようである。
津波による被害を受けた地域では、地域全体が壊滅している。鉄筋コンクリート造の建物はそのまま残っている場合も多いが、木造の建物は流されており、鉄骨造の建物も骨組だけになっているものも多い。津波が直撃した沿岸では、写真5に示すように鉄骨が飴のように曲げられる被害が発生しており、津波によって想像を絶する大きな力を受けたことがわかる。このほか、埋め立て地などで地盤の液状化による被害が発生しており、写真6に示すように、建物が傾斜する被害も多く発生している。液状化だけでなく、地盤沈下なども多く発生しており、建物を支持する地盤の問題も大きな課題である。
写真4 RC校舎の被害 写真5 津波で破壊された鉄骨造建物 写真6 液状化で傾いた住宅