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観測された強震動の特性と余震観測
環境理工学創造専攻(教授) 山中浩明
東北地方太平洋沖地震は,規模がM9.0と大きかったために,東北から関東地方の広い範囲で大きな揺れが観測されました。ここでは,観測された地震動記録の特徴と本震の発生後に行った余震観測の結果について紹介します。図1は,東北地方の太平洋沿岸の強震観測点での速度波形を示しています。断層面が南北約500kmと非常に大きく,長い時間かけてこの断層面から地震波が放出されたために,振幅の大きい部分が長い時間続いていることがわかります。とくに,宮城県の沖合を発生源とする2つの波群が明瞭にみられます。さらに,遅れて茨城県沖を発生源としてもう一つの波群がみられます。これらは,断層面の地層の複雑なずれ様式を反映した成分と考えられています(例えば,防災科研,2011)。こうした継続時間の長い地震動が首都圏に伝わると,長周期成分が顕著に卓越してきます。これは,関東平野の厚い堆積層の影響です。関東平野でも場所ごとに異なる特徴の地震動になっていることが図2でもわかります。こうした長周期地震動によって首都圏の超高層ビルは,その揺れが目視でもわかるほど大きく揺すられました。
図1:本震の強震記録(東西速度)
図2:首都圏の速度記録
今回の地震では,震度7が観測された地域がいくつかありました。そのうちのひとつの宮城県築館では,最大加速度2.7Gが観測されました。図3に示すように,2つ目の波群の初めのほうで,非常に短い時間ですが,2Gを遥かに超える加速度となっています。しかし,この観測点の周辺では,建物が倒壊するほどの被害はありませんでした。図には,兵庫県南部地震や中越地震など震度7に近い揺れであった地点での加速度記録も示されています。これらの地震記録に比べて,今回の地震の揺れがいかに大きく長かったがよくわかります。これらの強震記録の応答スペクトルも図には示されており,築館での本震の強震動には,周期0.2秒付近の短周期成分が大きく卓越しています。一方,周期1秒程度の成分は,兵庫県南部地震のほうが大きく,これらの周期成分の差異が被害の少ない原因であると考えられます(例えば,境,2011)。この短周期地震動の成因を理解するために,築館強震観測点周辺で余震観測を行いました。図4の観測点付近の写真でわかるように,この強震観測点は崖の上にあります。図は,この崖上と崖下の観測点で観測された余震記録から得られた周辺の硬質地盤に対するスペクトル比も示しています。崖下の地点は,表層地盤がない切土された地点で平坦な比です。一方,崖上では,本震に類似した短周期成分が卓越しています。厳密には,地盤の非線形応答で多少余震時と本震時では異なりますが,強震観測点では表層地盤の影響で短周期成分が大きくなったと考えられます。
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図3:過去の強震記録の加速度と応答スペクトルの比較 |
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図4:宮城県築館観測点付近の様子と余震観測による硬質地盤に対するスペクトル比 |
このように,今回の地震では短周期から長周期まで非常に幅広い周期帯域の地震動が多数の地点で観測されました。断層の破壊過程,長周期地震動の伝播,表層地盤での増幅,非線形地盤応答などの様々な面からの科学的検討が進められ,これらの複雑で多様な強震記録の特徴が解明されようとしています。ここでの強震記録はK-NETおよびKiK-netによるものです。記して感謝いたします。