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「想定外」にどう対応していくのか?
人間環境システム専攻・教授・翠川三郎
2011年3月11日の地震は事前に想定できなかった巨大地震であり、この地震以降、「想定外」という言葉が世の中でよく使われている。今回の教訓のひとつとして、このような想定外の事象を取りこぼさないよう、より綿密に最悪の事態を考えるべきことがあげられている。例えば、中央防災会議の専門調査会(東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会)から6月に発表された提言では、「これまでの地震・津波防災対策では、過去に繰り返し発生し、近い将来同様の地震が発生する可能性が高く切迫性の高い地震・津波を想定してきた。(中略)今後、(中略)これまでの考え方を改め、(中略)科学的知見をベースに、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである。」と指摘されている。
しかし、これまでの考え方を改めたとしても、想定を越えるものが、起こる確率は低くはなるものの、起こらないとは断言できない。したがって、さらに重要なことは、想定を越える事態になってもお手上げということにならないような対策を講ずることであろう。前述の提言でも、今後の津波対策として、「住民の避難を軸に、土地利用、避難施設、防災施設の整備などのハード・ソフトのとりうる手段を尽くした総合的な津波対策の確立が急務である。」や「設計津波高を超えても、施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物の技術開発を進め、整備していく必要がある。」が指摘され、多重防御やねばり強さの考え方が示されている。
これは何も目新しいことではなく、従来から防災計画や耐震設計等でも謳われていたことである。しかし、この考え方が十分には浸透していなかったため、原子力発電所の事故も含め、今回の震災が想定を越える大きなものとなったとも言え、今回の地震が想定外だったためだけで片付けられる問題ではない。多重防御の防災対策を進めるには、ソフトからハードな対策まで多様で多重な対策が社会に実装される必要があろう。社会に実装されるためには、最先端の技術だけでなく、普及容易な単純な技術も使いわけることが重要となる。このようなより複合的かつ総合的な取り組みを進めていくことが、改めて、震災メガリスク軽減のために強く求められているように感じている。