出版物
東京を歩く会
建築学専攻(助教) 西村康志郎
1.はじめに
日本建築学会関東支部に地震災害調査連絡会が設置されており、この地震災害調査連絡会では一昨年度より地震災害調査模擬体験「東京を歩く会」を開催している。「東京を歩く会」では、地震災害のない状態の市街地を視察・記録・情報蓄積している。目的は、地震災害調査時の調査方針の手掛かりとすることや、地震災害前後の状態を記録および情報蓄積することである。「東京を歩く会」は地震被害調査の練習・訓練を目的の一つとしているため、比較的若い研究者たちを対象としている。我々のG-COE拠点と非常に関連が深く、若手研究者のネットワーク形成の観点からも、地震被害調査連絡会と連携することは非常に有意義と考え、第1回目から積極的に参加・参画している。ここでは、過去2回行われた「東京を歩く会」について紹介する。
2.第1回東京を歩く会(墨田区東向島)
実施日時は平成20年9月24日(水)の14:00〜16:30、参加人数は14名で、そのうち東工大からの参加者は6名であった。東京都墨田区東向島6丁目の一部を視察および記録した。調査区域は、東京都都市整備局が発表している建物倒壊危険度が高く、且つ、1923年関東地震での震度の大きいとされる区域から選ばれた。調査中の住民とのトラブルを避けるために、調査内容の住民向け説明用書面の準備と、事前の交番への調査内容の説明を行った。4班に分かれ、約220戸の建物の構造と階数を記録し、同時に写真撮影や、GPS端末による記録も行った。1戸あたり1分程度で記録した。また、八広公園にあるK-net観測点(八広)と、向島消防署内およびその敷地内の震度観測点(東京都東向島)を見学した。消防署では、震度速報や地震発生時の体制などについて説明を受けた。
【東工大参加者(順不同、敬称略)】
三浦弘之(助教)、吉敷祥一(助教)、西村康志郎(助教)、小橋知季(当時B4)、石井一徳(当時D2)、松田和浩(当時D3)
【東工大参加者の感想(順不同、敬称略)】
調査範囲が比較的狭く,調査項目も少なかったため,実際の被害調査を模擬するには,多少物足りないように感じた。比較的新しい戸建て住宅の構造を判別するのは,思ったより難しく,個人的には貴重な体験となった。(三浦)
調査の内容を住民へ説明した際、路地が狭く入り組んでいるため、被災時に避難場所まで行けないのではと心配していると聞いた。住民への調査の説明は、ある程度積極的に行うことで、心配事など住民の情報を得ることが可能かもしれない。今回は、1戸あたり1分程度と短時間で調査したが、複数地区を見て回ることで、地区ごとの特徴など調査時の見方が変わると1戸あたりの調査時間も長くなると思う。複数地区の比較という意味で、複数地区の調査の意義も感じた。写真の撮り方やGPS端末の使い方などについて、実際に調査で使う機器を用いて日頃からある程度練習する必要性を感じた。(西村)
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長浦神社での打ち合わせ(第1回東京を歩く会) | K-net観測点(八広) |
3.第2回東京を歩く会(墨田区横網)
実施日時は平成21年11月3日(火)の14:00〜16:30、参加人数は15名で、そのうち東工大からの参加者は6名であった。東京都墨田区の横網町公園に集合し、東京都慰霊堂、震災復興記念館、K-net観測点(横網)、を見学した。東京慰霊堂と震災復興記念館は、それぞれ、関東大震災や東京大空襲の慰霊施設と資料の展示及び保管の場所である。その後の調査では、1回目と同様な方法で、東京都墨田区亀沢1丁目の一部を3班に分かれて約210戸の建物を視察および記録した。
【東工大参加者(順不同、敬称略)】
熊谷知彦(助教)、吉敷祥一(助教)、日比野陽(助教)、西村康志郎(助教)、久田昌典(当時M1)、山上卓人(当時M1)
【東工大参加者の感想(順不同、敬称略)】
災害に備え都市の建物データを記録しておくことは大変意義があり,今後も継続していくべき活動であると感じた。実際に活用することがない方が望ましいが,万一の場合には重要になり得ると思う。また,今回は建築学会が単独で実施したものであるが,学会から説明を行うなど,住民へのコンセントも必要ではないかと思う。特に大規模な調査が必要となった場合に,作業の簡略化や情報の共有と収集に大いに役立つと思われる。今後も継続的に実施され,さらに促進されることが望まれる。個人的にも災害後の調査の訓練となり有意義な時間であった。(日比野陽)
建物自体が階段状になっている建物や商店等の看板の大きな建物は,路地が狭かったため建物の階数の判断が難しかった。また、建物の一部分が屋根裏部屋のように突き出ている建物について,それを階数に含めるかどうかで迷った。今回は,部屋が在りそうな大きさのものは階数に含めたが,簡易に判断するための規定を設けると各班で統一したデータが取れると思った。構造形式の判別については,比較的古い建物でRC構造かS構造かで迷うものが多くあった。構造形式についても明確に見分けられる基準があると良いと思った。最後に,「東京歩く会」であるのに,調査範囲がそれほど大きくなかったためあまり歩かず,通勤時間の方が長かったのは残念に思った。(林研究室 久田昌典)
私は構造形式および階数の記録する係だったが,構造形式を見分ける際に,一戸建ての場合には軽量S造か木造か,ビル建物の場合にはS造かRC造かの判別が難しい建物が多々あった。この判別は,無損傷の場合には難しいのかもしれないが,一つの手段として各構造形式で標準的に使用される外装材による判別があるのではないかと思う。しかし,実際の地震被害調査の場合には構造体がむき出しになっていると考えられるので,今回の調査よりは判別が容易なのかもしれない。また,地震被害調査の訓練をすることで,より迅速に作業を進められる服装や装備を想像することができただけでも,価値があったように思う。被害調査訓練とは関係ないが,昨日の集合場所であった横網町公園で起こった火災旋風などの記録を見ていると,耐震性の確保に加えて火災に対する対策も必要であると感じた。また恥ずかしながら今回東京を歩く会に参加して東京都慰霊堂や東京都復興記念館のような関東大震災に関連する施設の存在を知った。地震防災に関わる方々は是非一度訪れてみることをお薦めする。(熊谷知彦)
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亀沢1丁目での調査(第2回東京を歩く会) | 震災復興記念館の屋外展示物(鉄筋コンクリート柱) |