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 ■ 2007年新潟県中越沖地震と地震動について

人間環境システム専攻(教授) 翠川三郎
人間環境システム専攻(助教) 三浦弘之
都市地震工学センター(研究員) 大堀道広

1.はじめに

  2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震(MJ6.8)では,新潟県柏崎市,刈羽村を中心に死者14人,重軽傷者2,315人,全壊家屋1,259棟,大規模半壊850棟,半壊4,631棟,一部損壊34,046棟,非住家被害31,346棟(2007年11月9日現在)の被害が生じた.ここでは,強震観測点で観測された震度の分布や震源域周辺での墓石の転倒調査結果,強震動波形の特徴やそれらから推定される断層面の震源過程について検討した.


図1 2007年新潟県中越沖地震の計測震度分布

2.震源域周辺での地震動強さ

  図1に気象庁(JMA),防災科学技術研究所のK-NETおよびKiK-net,新潟県などの強震観測点における計測震度(相当値を含む)の分布を示す.図中の星印と破線は震央とその余震域を示している.柏崎市,刈羽村,柏崎市西山町などにおいて震度6強が,上越市北部,小千谷市,出雲崎町などにおいて震度6弱がそれぞれ観測され,広い範囲で震度5強が観測された.

  被災地での地震動強さの分布を知るために,以前より墓石の転倒調査が行われてきた.現在でも強震観測記録のみから詳細な地震動強さの分布を把握することは困難であることから,墓石の転倒調査を行った.調査範囲は寺泊町から柏崎市中心部で,計41地点の墓地を調査した.


図2 墓石の転倒率分布

 墓石の転倒率の分布を地形・地盤分類図と重ね合わせたものを図2に示し,その右側には転倒率分布の南北方向の断面図を示す.右図のプロットの色は左図の地形・地盤分類の色分けと対応させている.これをみると,山地・丘陵などからなる北部の地域では,転倒率20%以下の地点が多く,砂丘,後背湿地,デルタからなる中部・南部の地域では転倒率が50%以上となる地点が多くなっていることがわかる.特に,原子力発電所周辺では70%以上の高い転倒率を示す地点が多く分布しており,原子力発電所周辺の地域は非常に強い地震動に見舞われたことが示唆される.

3.強震観測記録の特徴とそれに基づく震源過程の推定

JMA出雲崎,K-NET柏崎および柏崎刈羽原子力発電所の地表での記録の加速度波形を図3に示す.JMA出雲崎の波形をみると,6秒付近のS波初動に続いて,8秒付近と12秒付近に振幅の大きな波がみられ,計3つのパルスがみられる.また,K-NET柏崎の波形では,13〜17秒の間にスパイク状の波がみられ,17秒以降では振幅が急激に小さくなっている.このスパイク状の波はサイクリックモビリティの影響によるものと考えられる.原子力発電所の記録をみると,5号機観測小屋は1号機観測小屋から北北東に約1.5km離れた場所に位置し,両者の地盤条件に大きな違いはみられないが,波形の特徴はやや異なる.また,両者の波形にはJMA出雲崎の波形と同様に,8秒,11秒および14秒付近に振幅の大きな3つのパルスがみられる.このように,震源域周辺の強震記録の多くに3つの大きな振幅のパルスがみられ,本地震の震源過程において大きな破壊領域が複数存在することが示唆される.

 
図3 強震観測点における加速度波形

 各観測記録から得られる速度波形のオービットの分布を図4に示す.断層面に近い観測点では断層直交方向の成分が卓越している様子がみられる.これを時間に区切ってみると,第1のパルスでは北北西-南南東に振動方向が卓越するのに対して,第2のパルスでは北西-南東方向に,第3のパルスでは西北西-東南東に,卓越方向が反時計回りに回転する様子がみられる.

 ここで,南東傾斜と北西傾斜の2通りの断層面を仮定し,さらに震源深さを8,10,13,16kmの4通りに変化させた計8通りの断層モデルを設定し,断層面上のS波放射特性から算出される波の極性と観測記録の極性との比較を行うことで,断層面上におけるパルスの発生位置を推定した.図5に南東傾斜の断層面を仮定した場合の推定結果を示す.図中の@,A,Bとして色づけされた領域が,それぞれ第1〜3のパルスの主破壊領域として推定された箇所を表す.これをみると,いずれの震源深さの場合でも,破壊は断層の北東側から始まり,南西方向に進行した様子がみられ,特に第3のパルスは原発サイト付近で発生したものと推定される.

図4 速度波形のオービット 図5 推定された主破壊領域の分布
(断層面が南東傾斜の場合)

謝辞

  本報告では,気象庁,防災科学技術研究所のK-NET,東京電力(株),新潟県の強震観測記録を使用させていただきました.記して謝意を表します.



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