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 ■ 緑ヶ丘1号館レトロフィット

建築学専攻(准教授)
竹内 徹

 東京工業大学緑ヶ丘1号館は、大岡山地区における土木工学・建築学専攻の拠点として使用され、1967年の竣工で今年40歳を迎える建物である(図1)。1971年の基準法改正前の建物であり、大地震時には柱がせん断破壊する崩壊形となる。特に製図室のある2階では、壁が少なく耐震指標(Is値)が0.26と目標値0.7に対して大幅に不足し、この階で層崩壊する危険性があった。そこで、2004年に建築学専攻の安田幸一助教授(現準教授)、湯浅和博助教授(現准教授)、神奈川大学岩田衛教授らと研究会を立ち上げ、耐震補強構法に関する検討を行った。その結果、早期に降伏することにより地震エネルギー吸収する鋼材ダンパーと、外壁ルーバー・ガラスを組み合わせる、耐震性能、環境負荷低減、外観の改良を同時に行う「統合ファサードエンジニアリング」のコンセプトを提示し、基本設計および研究開発を行った(図2)。低層部の柱については炭素繊維巻きによるせん断補強を行い、主架構の変形能力の向上を図る。付加する制振ブレースには低降伏点鋼LY225を使用し、塑性化長さを節点間の25%に集約することで初期剛性を高めるとともにIs値0.7に対応するせん断力より降伏を始め、従来の耐震補強の性能を上回る地動最大速度50cm/secの地震に対しても主架構をほぼ無損傷(層間変形1/250以下)に収める計画とした(図3、4)。さらに、1/2.5スケールで2階の柱モデルを作成し、繰り返し載荷実験を行いその補強効果を確認した(図5)。左側の無補強柱は層間変形角1/250でせん断破壊を生じ、耐力低下を起こしたが、補強後(右)は層間変形角1/50でも安定した紡錘形の履歴ループを描き、1サイクルあたりのエネルギー吸収量は補強前の5倍以上となった。得られた履歴モデルを用いて時刻歴応答解析を行った例を図6に示す。補強前は2階で崩壊に至るが、補強後は全階層間変形角1/250以下の無損傷レベルに留まっている(図6)。外壁のルーバー・ガラスは季節を通じて環境負荷を低減し、自然風を取り入れ可能なハーフ・ダブルスキンを構成し(図7)、環境解析によりその効果を確認した。

  幸い2005年には工事予算が付き、改修工事を計画通りに実施することができた。改修工事は原則として研究室居付のままで実施された。図8に制振ブレース取り付け部の施工状況、図9に竣工時の外観を示す。本耐震改修事例は学内外から大きな関心を集め、他大学や文科省関係者からの見学者が多く訪れると共に、第5回リフォーム・リニューアル設計アイディアコンテスト最優秀賞、第1回日本構造デザイン賞などの賞を受賞した。大都市に残る既存不適格建物の数は数万棟と言われており、早急な対策が求められる。同様の改修構法の研究開発が都市ストックの改修促進の一助となることを願いたい。

  
図1:補強前の緑ヶ丘1号館
図2:制振補強コンセプト

図3:補強前後の耐震指標
図4:制振部材(座屈拘束ブレース)

図5:縮小架構実験による補強効果の検討

図6:時刻歴応答解析結果(地動Vmax=50cm/sec)
図7:環境負荷低減コンセプト

図8:ブレース定着部の施工状況

図9:竣工後の外観(撮影:石黒守)



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