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 ■ 地震防災先端技術の今後の方向

建築物理研究センター(教授) 笠井 和彦

 東工大都市地震工学センターの 3 重点課題のひとつに、先端技術で防災都市づくりを進める「地震防災先端技術」が掲げられており、それに取り組むメンバーの一員として、私は制振・免震構造を研究している。従来構造より、地震での揺れが少なくて壊れ難く内容物まで守ることができる付加価値構造である。現状では従来構造より建設コストがかかるが、適用例がますます増えていくと思っている。従来構造で、その耐力を犠牲にしてまで建設コストを削った耐震計算偽装(姉歯)事件は、言わばこれと逆の動きで、付加価値構造の浸透を脅かすものと懸念したが、後のアンケートで建物には多少お金をかけても安全性を高めたいという意見が多く、社会はおおかた建物の耐震性向上に向かっていると思われる。その役目を担う制振・免震の期待される方向を以下に述べる。

 制振・免震の普及のためには上述のコストの問題は避けられない。いつか必ず起こる地震から被る損害や補修を含んだ長期コストを考えると、建物を守る先端技術の優位性が明らかになる。将来は地震保険などで長期コストが考慮されると思うが、そのためにも、損傷抑制や補修費削減の効果をより正確に定量化する方向に向かうべきだろう。ただし、残念ながら現状では初期 ( 建設 ) コストが重要視されており、それを下げる努力も普及のために必要である。他の工業製品と同様に制振・免震装置の生産増大、メーカー間競争、実績世界一を生かした技術輸出などが価格低下の要因となるだろう。制振・免震は骨組への負担を軽減する構造であるため、骨組部材の削減や部材接合ディティールの簡素化も、初期コスト削減の鍵となる。

 ところで、制振・免震のように機械的、化学的な装置で建物の安全性を高めることの歴史は非常に浅く、そのため、大地震における実際の効果も未だ不明である。装置の性能確認では、ある限定された条件で実験を行い、その結果を用いて他の条件での挙動を、言わば外挿により確認しているにすぎない。実験装置の能力限界から、試験体は実大装置でなく縮小試作品を用いる場合もあり、また、建物に接続した条件を必ずしも反映させず、単純な境界条件を用いるのが典型的である。実製品とのスケール効果の影響度合いがどの程度明らかなのか、建築の中に組み込まれた状態と装置単体での挙動の相違がどの程度あるのか、設計仕様で規定された装置性能が実際に発揮されるのか、そして建物全体として装置と骨組が程よいバランスを保ちながら一体となって機能するのか、など曖昧な点が多くある。

 このように、真の効果が未だ実証されていない反面、従来構造より格段に高性能と考えられて適用例が増え続ける制振・免震構造を、できるだけ早く検証しなければならない。このニーズに対応できる絶好の実験プロジェクトを防災科学技術研究所(防災科研)から委託されたため、ここに要約する。プロジェクトは、制振・免震それぞれを現実的な実大 5 層建物に適用し、防災科研の世界最大の震動台( E- ディフェンス)により、建物に微小から極大までの地震動を与えるものである。骨組部材、非構造部材、内容物の挙動と損傷を調べ、建物機能と財産の保持性の観点から、これらの先端技術の効果を検証する。

 制振構造実験では 5 層建物の各層にダンパーを取付ける。 4 〜 6 種のダンパーを入れ替え、それぞれの効果を検討する。免震構造実験では、このビルの基部に免震層を設け、支承とダン パーを取付ける。支承の大変形時の不安定挙動や、ありふれた中低層の鋼構造ビルに適する免震形式などを検討する。 2008 年に制振、 2009 年に免震の実験を行うために、現在様々な検討を進めている。この研究により制振・免震の現実的な挙動を明らかにすると共に、更なる改善や解析・設計法を示し、地震から社会を守る技術の発展に寄与したい。



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