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 ■ タイ王国向けの遠隔講義を実施して

人間環境システム専攻(助教授) 盛川 仁

 COEの目的のひとつに教育環境を充実するとともに,海外との教育研究関係を推進するための拠点として機能する,ということがあります。このような目的を実現するためのひとつの試みとして,タイ王国のChulalongkorn大学にむけた遠隔講義を実施しましたので,その経過についてご紹介します。

 一昨年のスマトラ島沖の大津波により,タイ王国(以下ではタイと略称)でも一部の地域で甚大な被害がでたことは,記憶に新しいところです。タイでは耐震構造などの研究は多くなされていますが,残念ながら津波に関する研究はあまり多くはないようです。日本は,この分野における多くの貢献が期待されますが,それを教育にも活かす,ということで,Chulalongkorn大学の土木工学専攻の学生向けに,地震と津波に関する基本的な講義を開講する,ということが企画されました。これは,Chulalongkorn大学からの要請と我々COEの目的意識とがうまく結びついた結果といえます。

図1 東京工業大学での授業風景

図2Chulalongkorn大学での授業風景

 講義名は,‘Earthquake and Tsunami Disaster Reduction’ で,1/4期分, 7回の講義を用意し,東工大では1単位の講義として設定しました。 7回の講義を外部の非常勤講師1人(独立行政法人港湾空港技術研究所の平石哲也博士)を含む7人で担当し,地震や津波の基本的な事項から,災害軽減のための種々の対策までを概観する講義としました。

 ただ,海外の他大学に向けた講義の配信を行う,という試みは言うは易く,行うは難い企画です。というのは,学期の時期が異なる海外の大学向けに,日本の学期に合わせおこなう講義は,講義を受け取る側にとって単位の管理などが難しく,スムースな運用が難しいという問題があります。また,どのようなシステムを使って講義を配信するか,という問題もあります。前者の問題については,Chulalongkorn大学のある一つの講義のなかの一部として,7回分の講義を埋め込む,という形で時期のずれを吸収することができました。これは,海外向けの講義配信のひとつのありかたとして,非常にうまい方法である,と考えています。

 後者については,東工大では,通信衛星を使った講義配信を継続的に行っていますので,当初,この設備を利用することを考えました。しかし,今回の講義の講師が全員すずかけ台キャンパスにいるにもかかわらず,衛星放送向けの送信設備が大岡山キャンパスにしかなくあまり効率的でないこと,すずかけ台の遠隔講義室と衛星放送設備の間をネットワーク経由で接続し,衛星放送経由の講義を配信するには設備の準備が間に合わないこと,衛星通信では質問を受け取ることができないので,インターネット経由のコミュニケーションが必要になることなどから,通信衛星を利用することはあきらめて,インターネット経由でのTV会議システムを利用することとしました。そして東工大のNOC (Network Operation Center)の絶大な協力を得て,タイ向けのできるだけ高品質な回線を確保し,すずかけ台キャンパスから講義を配信しました。また,高速ネットワークの実験網である,JGN2 (Japan Gigabit Network 2)が,タイへ上陸したことをうけて,講義の途中からJGN2を使えるよう,大学経由で申請していただきました。JGN2への接続では,これまた東工大NOCなど,関連のネットワーク関係者から絶大なるご支援をいただき,ネットワークの経路制御の変更などにより,幸いにも最後の講義では,JGN2経由での講義配信に成功しました。これにより,ネットワークのレスポンスが約2倍になってアニメーションの送信などにおいても非常に快適な映像の伝送ができました。

 講義の内容については,タイ側,日本側ともにおおむね好評で,手間ひまをかけて講義を配信しただけのことはあった,と安堵しています。両国のどちらの学生からも熱心な質問があってただ単にネットワーク経由であることが物珍しい,というだけではなく,講義として内容が学生諸君の興味を引くものであったのではないか,と思っています。また,学生同士でも,自己紹介をするなどして,互いのコミュニケーションをとり,相手大学の学生がどういう雰囲気なのか,ということを知るよい機会になったようでした。

 ネットワーク経由の講義配信においては,大学のネットワークにおけるファイアウォールの設定の変更や,経路制御など,ローカルな講義担当者だけでは解決できないネットワーク上の問題に数多く対応する必要があります。つながってしまえば何でもないようなTV会議システムによる講義配信ですが,今回の遠隔講義の経験で,その陰で非常に多くの方々の協力を得て初めて成立するものである,ということを強く認識しました。また,事をスムースに運ぶためには窓口となる担当者のネットワークに対する基本的な知識も不可欠です。

 最後になりましたが,この講義を実現するにあたってお世話になった多くの方々のお名前をあげて,感謝の気持ちをお送りしたいと思います。 Chulalongkorn大学側の窓口として講義の実現にご尽力くださった工学部のPanitan Lukkunaprasit教授、Anat Ruangrassamee助教授,東工大側で,終始ネットワークの状況や設定についてアドバイスと最適な経路探索など, 全学のネットワークの仕事がお忙しい中で色々ご尽力くださったNOCの角田貢講師,遠隔講義についての豊富な経験をもとに様々なご助言をいただき,またJGN2接続への音頭をとってくださった教育工学開発センターの西原明法教授,JGN2への接続での具体的な作業を行ってくださったNOC協力教員の飯田勝吉講師,友石正彦助手, 篠宮俊輔助手。本当にありがとうございました。

図3 山中助教授の授業風景

図4Anat助教授

図5Chulalongkorn大学の学生達



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