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 ■ 2004年新潟県中越地震の強震動と余震観測

総合理工学研究科
(助教授) 山中浩明

 2004年10月23日新潟県中越地震はMj6.8 の内陸の浅発地震であり,新潟県小千谷市や川口町を中心とした震源域で大きな被害を生じました.この地震直後に防災科研K-NETや気象庁により強震記録が公開され,震源域では大きな加速度・速度が得られていることが早い段階でわかりました.本センターからは,複数のグループが地震動特性と被害に関する現地調査を行っています.その結果の概要は,すでに工学地震学・地震工学談話会(地震工学研究レポート92)で報告されています.ここでは,今回の新潟県中越地震による強震動特性および著者らのグループで実施した小千谷市での余震観測の結果について紹介します.

 新潟県中越地震は,北西側に傾斜した逆断層タイプの地殻内地震である.この地域では,中規模な地殻内地震が過去においていくつか発生しています.さらに,地震調査研究推進本部により長岡平野西縁断層帯ではM8程度の地震が発生する可能性も指摘されていましたが,今回の地震とは異なる活断層に起因するものです.今回の地震では,本震の発生直後に規模の大きい余震も含めて多くの余震が発生し,小千谷市で震度5強以上の余震が10回以上もあったことがひとつの特徴です.臨時の余震観測結果(例えば,平田,2004)によれば,一連の地震活動において,少なくとも3つの別の断層が動いていることが明らかにされています.とくに,10月27日のM6.1の地震は,本震と異なり,南東傾斜の共役断層での地震でした.こうしたことが余震活動の活発さの原因であると考えられています.

これらの地震の際には,震源域の小千谷市,川口町,旧山古志村などで強震記録が得られています.とくに,小千谷市では,隣接した2地点での強震記録に大きな違いが認められ,多くのの研究者が注目することとなりました.

 図1は,いくつかの地点での断層面に直交した本震の速度波形を示しています.小千谷市での気象庁(JMA)による強震記録では,最大加速度0.9G,最大速度 93cm/sであり,計測震度相当値は震度6強となります.一方,同市のK-NET観測点では,それぞれが1.5Gと121cm/sであり,計測震度は7です.しかし,K-NET観測点付近では,川口町に比べて建物被害が激しくありませんでした.図2に示したK-NET観測点での速度応答スペクトルでは周期1秒以下の短周期成分が卓越しています.一方,被害の多かった川口町のスペクトルは,より長い周期1−2秒でピークとなっています.参考のために,1995年兵庫県南部地震で被害の大きかった鷹取での強震記録のスペクトルと比べてみると,川口町のスペクトルと同程度であり,川口町で被害が多かったことと矛盾せず,応答スペクトルの周期成分の差異が小千谷市での被害が川口町よりも少なかったことの一因であると考えられます.こうした地震動特性の違いは,図3に示した墓石の転倒状況をみてもよく理解できます.震度6弱の長岡では,墓石の転倒は全く認められませんでした.小千谷市内では,場所により転倒率がかなり異なっており,地震動特性の空間的な変動が大きいことを示しています.一方,川口町では,すべての墓石が激しく転倒しています.

 筆者らは,本震の発生直後に強震動特性を解明するために余震観測を実施すべきかどうかの議論を行い,25日に現地に向かうことにしました.当日は,関越道が途中から不通となっており,長野・柏崎を経由し,夕方に小千谷市に入ることができました.市内では通行規制が厳しく,さらに渋滞も激しかったので,地震計の設置後に新潟市の宿に帰ると,深夜となってしまいました.翌日も早朝から,被害調査と余震観測を続けました.深夜の暗闇中で機器を設置した地点に朝行くと,全く異なる雰囲気の場所であり,本人たちも驚くことがありました.28日には,それまで通行規制のあった川口町まで入ることができました.被害の様子は,小千谷市とは異なり,被害の激しい町中心部では兵庫県南部地震での被害を思い起こさせるようで,上述のスペクトル特性の違いは,被害の様子からも伺えました.

 図4には,小千谷市に展開した余震観測点の位置を示しています.上述の2つの強震観測点を取り囲むように,市内をほぼ東西に横切るように地震計を設置しました.この余震観測では,10月27日M6.1の余震を観測することに成功した.筆者らは,ちょうど小千谷市内で調査中であり,その揺れはやはり恐怖感を覚えるものであり,被災された方々の心労の多さを痛感しました.図5は,この余震の東西方向の速度記録を示しています.すべての観測点でパルス的なS波が認められ,震源の影響であると考えられます.K-NET観測点付近では短周期成分が多く認められ,地盤の影響が強いことがわかります.しかし,この短周期成分は,その西側の地点(観測点13)では小さく,空間的に変動が大きいと考えられます.速度応答スペクトルは,図6に示すとおりです.K-NET観測点周辺では,周期0.5秒付近に非常に大きなパワーを持つピークがあり,小千谷市内でも地盤特性が最も強く現れる地域であると考えられます.なお,この卓越周期は,図2の本震の場合と異なっています.これは.表層地盤の非線形地盤増幅特性による違いであると考えられています.これらの記録から計測震度に相当する値を計算すると,図7のようになります.小千谷市内でも,地盤条件によって震度1程度の差が生じることがわかります.本震による強震動の評価では,こうした地盤特性の違いを考慮することが重要となります.現在,これらの余震データを用いて,強震動特性の解明が行われようとしています.

 この地震は,震源から200km以上も離れた首都圏でも観測されています.図8は,すでにニュースレターでも紹介した本センターによってすずかけ台キャンパスで行われている強震観測網で得られた速度記録を示しています.この観測では,最新の観測システムを導入しており,高品質なデータを記録することに成功しました.この記録には,S波の到着の後に非常に長い周期成分が長時間続いており,関東平野の厚い堆積層で増幅した表面波であると考えられます.こうした表面波は関東平野のほとんどの地域で観測されており,首都圏の高層ビルの地震応答特性とやや長周期地震動特性との関連で興味深く,今後詳細な検討が必要になると考えられます.

図1:中越地震と兵庫県南部地震による
強震記録の比較

 
図2:速度応答スペクトル(5%減衰)の比較
長岡市転倒なし
小千谷市東栄2割

小千谷市本町9割

川口町ほとんど転倒

図3:墓石の転倒状況
図4:余震観測点と震央の位置
 
図5:10月27日M6.1の余震の記録
M
図6:図5の記録の速度応答スペクトル
図7:計測震度相当値の分布
   
図8:すずかけ台キャンパスでの中越地震の観測記録


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