

都市は日々複雑化しており,「どこにどのような震災リスクが潜んでいるのか」を想像することすら難しくなっています.一方で,適切な震災対策を行うためには,適切な震災リスクの想定が必要です.意思決定者である一般の市民の方々,行政官,技術者の間で震災リスクに対する共通認識を構築し,様々な主体が様々な尺度で震災リスクを評価可能な仕組みを作ることは,震災リスクの軽減を図る上で重要です.
近年,都市における建物データや地盤データなどがデジタルデータとして整備されてきています.また,震災シミュレーションに関する様々な最先端の知見が日本には蓄積されています.これらの都市デジタルデータと各種震災シミュレーションを組み合わせ,大規模数値シミュレーションを行うことにより,広域都市震災リスクの想定を行う広域都市震災シミュレータを開発しています.このシミュレータには,地盤構造や構造物などのデジタルデータ及び地盤や構造の応答を計算するプログラムやネットワーク解析プログラムなどが組み込まれており,さまざまなシナリオに沿って都市の震災の様子を解析し,可視化することが可能です.
【図】A県のある地点のデジタルデータを用いて計算機上に構築された都市モデル:地盤構造や道路ネットワークなど数値シミュレーションに必要な情報が含まれています.大地震が起こった際にある住宅(B地点)から避難所(A地点)にたどり着けるかを評価するために構築しました.
【図】広域都市震災シミュレーターによる解析結果:断層から放射された地震波,地盤の増幅による影響,液状化の影響,道路閉塞の影響など様々な影響を加味して,ある住宅(B地点)から避難所(A地点)までの到達可能性を評価しています.この例では,到達可能性は86%となり,大地震時には避難所に到達できない可能性があることが分かりました.また,道路閉塞のため回り道をする必要があり,避難所までの到達時間が平常時に比べて長くなることもわかりました(道路の色は使用頻度を表しています.赤くなるほど良く使用されています).このような検討を通して,都市の道路ネットワークの冗長性評価や弱点箇所抽出が出来,効果的な事前対策につながると期待されます.
広域都市震災シミュレーターを現実性の高いものにするためには、より多くの広域都市デジタルデータと各種震災シミュレーションを本シミュレータに組み込み精度の向上を図る必要があります.また,過去の地震災害に関する知見を総合的に考慮し,より信頼性のあるシミュレータとする必要あります.これらを考慮した上で,信頼性の高い広域都市震災シミュレーターを構築し,意思決定者である一般の市民の方々,行政官,技術者の間で震災リスクに対する共通認識を構築し,様々な主体が様々な尺度で震災リスクを評価可能な仕組みの提案などを行いたいと考えています。